フランス語には、日本語にはない独特な表現 “Expression française”(フランス語特有の表現/慣用表現)がたくさんあります。
今回はそんな表現の中でも、特に面白く、フランスの長い歴史を感じられるフランスらしい特有の表現を5つご紹介します。
Poser un lapin 【直訳:うさぎを置く】
lapinとは「ウサギ」のことです。poserは動詞で「…を置く」という意味があり、直訳すると「ウサギを置く」と言う意味になります。
18世紀、ウサギという名詞は「細部に至るまで作りこまれた並外れた物語」のことを意味していました。そのため、この”poser un lapin”は「物語を語る」ことを意味していました。
19 世紀、売春婦に代金を支払わずに去った男性を「ウサギ」と呼んでいたことから、上記の意味に発展し、現在の私たちの時代に受け継がれるようになったと言われています。
そして19世紀末、次第に「女の子に好意を寄せてもお金を払わない」こと(より一般的にはお金を払わずに立ち去ること)を暗示する表現手段に移り変わり、次第に「約束をした相手に知らせずに約束を破棄する」という意味に移り変わっていきました。
相手にそのように伝えておきながら(期待させておきながら)すっぽかすことを「ウサギを置く」と表現するのは驚きですね。うさぎを置いて(自分に見立てて)このうさぎちゃんを自分だと思ってね、という意味なのでしょうか。なかなか面白い表現ですよね!
Avoir du pain sur la planche 【直訳:まな板の上にパンがある】
Avoirは「持つ」と言う意味で、英語の”have”に該当します。painはパン、plancheはまな板のことです。
直訳すると「まな板の上にパンがある」という何の変哲もない普通の風景のように思われますが、フランス語表現での意味は「仕事をたくさん抱えている」という意味になります。
まな板の上に、切らなければならないパンがたくさんあるイメージでしょうか。自分をパン屋さんに見立てて、「まだまだ今日は切らなければならないパンがたくさんあって、仕事が終わらない!」という状況の感じもしますね。いずれにしてもまさにフランスという国独特の表現方法で面白いです。
Mettre de l’eau dans son vin 【直訳:彼のワインの中に水を入れる】
mettreは動詞で「(物)を(ある場所)に入れる、置く」と言う意味があります。l’eauは水、dansは…の中に、son vinは彼のワイン。直訳すると「彼のワインの中に水を入れる」と言う意味になりますが、フランス語では「態度を柔軟にする」と言う意味があるのです。
調べると、起源には「ワインを水で割る」という隠喩があり、「ワインを水で薄めて少し濃さを和らげて、飲めるような感じにする」というニュアンスです。少し要求を和らげる時や、頑なだった態度を柔軟にする時などに使われる表現です。言いたいことをオブジェ(物)に見立ててわかりやすく表現しており、とても興味深いですね。
Être connu comme le loup blanc 【直訳:白い狼のように知られている】
Être connuは受動態で「知られている」、commeは英語の”like”と同様で「…のように」、loupは狼、blancは白なので直訳すると「白い狼のように知られている」となりますが、意味は「世間によく知られている」になります。
白い狼は、ご存知のように私たちが遭遇する可能性はめったにありませんよね。上記は、このように表現することにより、その並外れた外見のように、非常に人気があり、世間に知れ渡っているという内容を意味します。通常は灰色の狼ですが、みんなと違う色で一際目立っている=人目を置かれる存在、世間によく知られているという意味になるなんて斬新で、とてもフランス的な表現方法ですね!
Donner sa langue au chat 【直訳:猫に舌を与える】
フランス人のお気に入りの表現のひとつをご紹介します。Donnerは与える、sa langueは彼の舌、chatは猫になるので「猫に(彼の)舌を差し出す」=「解決策を見つけることを諦める→分からないから降参するよ(答えを教えてよ)」という意味になります。
17世紀に活躍したフランス人手紙作家のセヴィーニュ夫人が、自身の物語の中で使用した表現「jeter sa langue au chien(犬に舌を投げる)」というフレーズを和らげるために作られた表現方法です(意味としては、なぞなぞなどクイズが分からないのでお手上げ、と言う意味で同じです)。
フランスではこのように、過去の文学者や物書き、詩人、小説家などが昔使っていた表現方法などを、現代でもそのまま受け継いで使用していることがとても多いです。古き良き歴史を感じるとともに、ご先祖様を大事にすると言う国民性、愛国主義的なものを感じますね。パリの街並みが昔も今もあまり変わらないのと同じように、昔ながらのものや建物などと同じように、昔から伝わってきた表現方法をずっと大事にする国(国民性)なのだということが伝わってきますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。フランス人は言いたいことをわかりやすく具体的に相手に伝えるために、常に頭の中でイメージして話していると言われています。そのため、言いたいことを物(オブジェ)などに見立てて話すことが多いのですが、今回の表現の中にもまさにその技法がたくさん活用されていましたね。
また、古き良きものを非常に大事にする国フランス。パリらしい建物や外観を大事にしてきたり、外観を乱さないために洗濯物を外に干さないことが暗黙の了解、などという風流を大事にしてきました。
そのような風潮が昔から代々今の時代にも引き継がれてきたのと同じように、表現方法・慣用表現についても、昔の詩人や物書き、文豪家が残した手紙や小説の中に書かれていた表現方法を大事にし、今でもそれが使われ続けていると言うことから、非常に愛国心の強い国民性であることが理解できます。
上記の表現だけでも、とても面白く関心を惹きつけられますよね。ぜひ、もっと面白いフランス語表現を見つけるためにも、フランス語への関心を高めて、毎日こつこつフランス語に触れることでフランス語特有の表現を見つけてみてくださいね。